人工関節置換術による変形性膝関節症の治療

人工関節置換術とは、すり減って変形してしまった関節の表面を、金属やポリエチレンなどでできた部品で置き換える手術です。関節が大きく変形し、痛みが強い場合に行われることが多いです。19世紀末ごろに象牙を使って行われたのが最初と言われています。最近ではコバルト・モリブデン・クローム・チタンなどの錆びない合金や、高分子ポリエチレンなどが使われています。現在は人工関節の耐用年数も15~20年にのびています。
全国的にみた人工膝関節置換術の内訳は、重症の関節リウマチ患者が約3割、重症で痛みの激しい変形性膝関節症の患者さんが約7割で、いずれも痛みがひどく人工の関節にする以外に方法がない場合に人工膝関節を埋め込む手術を行っています。2005年末現在、日本では約5万人が、アメリカでは約30万人がこの全膝関節置換術を受けています。
人工関節置換術には、関節全体を置き換えてしまう全人工関節置換術と、損傷の激しい部分だけを置き換える単顆置換術があります。また、膝関節の内側または外側のどちらかを置き換える片側膝関節置換術と、一方の膝すべてを取り替える全膝関節置換術があります。
手術の手順としては、まず膝の中心を縦に13~15センチ程度切開します。靭帯と関節包も膝蓋骨を横にずらせるぐらい十分に切開して、骨・軟骨の破壊の強い部分を確認し、滑膜の増殖が強ければ十分に切除します。半月板も切除します。そして大腿骨部分と脛骨部分をむき出しにしてなるべく少なく(約9ミリ)骨を切除・形成します。切除された骨に合わせて人工膝関節の大きさを選びます。その後、関節の中を十分洗浄し、血を止めて関節包を縫合し、皮膚を縫い合わせます。手術時間は約1.5~2時間、術中後総出血量は400~600ミリリットルです。抜糸はだいたい2週間後です。
手術後は痛みが全くなくなります。日常生活にはほとんど影響がなく、活動範囲ももとのように広がってきます。激しい運動はできませんが、ゴルフ程度なら可能です。買い物や外出、仕事を諦めざるを得なかった患者さんが元の生活を取り戻し、性格や考え方まで明るく変化していくことも少なくありません。
個人差はありますが、手術後2~3日で下肢を持ち上げることができ、1週間で90度まで曲げられ、屈曲120度は2週間でできるようになります。
変形性膝関節症の手術の中ではこの人工関節置換術がもっとも患者さんの負担が大きいものとなり、合併症に対してもより注意が必要です。特にやっかいなのが感染症です。ステロイド剤を用いている患者さんや糖尿病の患者さんは感染症をおこしやすいとされています。さらに、頻度はきわめて低いものの、深刻な事態をおこしかねないのが肺血栓塞栓症です。これは、脚の静脈にできた血栓が肺の動脈に詰まるもので、最悪死に至る場合もあります。十分に予防することが重要となります。感染性関節炎を合併している場合は手術はできません。
大切なのは、手術後すぐに大腿四頭筋の強化運動を始めることで、1日200回ぐらいの運動は行わなければなりません。この大腿四頭筋の強化が足りないと、術後の腫れが長引いたり、膝の曲げ伸ばしが悪くなったり、人工関節に無理がかかって高分子ポリエチレンが磨耗したり、関節部分が緩んだりすることがあるからです。手術前にじゅうぶんに歩けなかった時期が長い人ほど筋肉の萎縮の程度が強くなっていて、それだけ筋力回復に時間がかかります。